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機関紙 KAWA-RA版 労務管理や社会保険に関する話題の情報を、
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第112号 令和3年7月1日

伴弁護士の法律の窓

【テーマ】

懲戒解雇と退職金

【質問】

当社の従業員Xが、職務時間外(休日)に、電車内で痴漢行為をし、逮捕されました。その後、迷惑防止条例違反で起訴され、結局、罰金刑を受けてしまいました(従業員Xは、以前にも痴漢行為をして逮捕されたことがあります。)。
当社は、社内で検討した結果、Xを懲戒解雇とすることにしました。さらに、懲戒解雇により退職する者には原則として退職金を支給しないという就業規則の規定に基づき、Xに退職金は一切支払わないつもりです。この場合に退職金を全く支払わなくても問題はないでしょうか。

【回答】

会社としては、Xの問題行為の性質・内容や懲戒解雇に至る経緯、Xのこれまでの勤務態度や仕事の実績などについての資料を収集し検討したのち、退職金の支払額を決めたほうがよいでしょう。特に、退職金全額の不支給を考えている場合には、慎重に検討すべきです。

【説明】

1 従業員が懲戒解雇となった場合に退職金を一切支払わない、との就業規則をおく会社は少なくないと思います。
退職金を従業員の退職までの勤続の功をねぎらうものと捉えると、問題行為を起こした従業員には、退職金を支払わなくてもよいとの結論につながりやすいです。
一方で、退職金は、これまで働いてきたことについての対価を後でもらっているものとも考えられます。このように考えると、たとえ問題行為があったとしても、すでに働いた労働の対価である退職金を支払わなくてよいとは言いづらくなります。
裁判実務上も、これらの退職金の性格を考慮して、就業規則で退職金を一切払わないと定めること自体は有効としますが、そのかわり退職金を一切支払わなくてよい場合を限定する運用となっています。
具体的には、懲戒解雇が有効であっても、退職金全額を不支給とするには、当該従業員の問題行為が、その従業員の永年の勤続を功を抹消してしまうほどの重大な不信行為があることを必要とします。

2 今回の質問に沿っていうと、まず、痴漢は非常に悪質な行為です。また、Xは、過去にも同様の痴漢行為をしたとのことです。これらの事情は、Xに重大な不信行為があると認める方向に働きます。
一方で、今回の痴漢行為は、会社の業務自体とは関係なくなされたXの私生活上の行為ですので、業務上の横領や背任など、会社に対する直接の背信行為とは性質が異なります。このような私生活上の問題行為の場合には、その行為によって会社の名誉信用を著しく害し、会社に無視しえないような現実的な損害を生じさせるといえるかも重要です。
また、Xのこれまでの勤務態度や仕事での実績なども考慮に入れて、重大な不信行為といえるかを判断することになるでしょう。

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