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機関紙 KAWA-RA版 労務管理や社会保険に関する話題の情報を、タイムリーにお届けする当事務所オリジナルの機関紙です。

第70号 平成26年7月1日

能力低下を理由とする解雇が認められなかった事例

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(金銭解決の相場は2.3カ月分)
~能力不足判断の判断の仕方と外資系企業の特殊性~
ブルームバーグ・エル・ピー事件(東京高裁25.4.24判決)

今回取り上げる事例は、能力不足による解雇が認められるか否かを判断するときに、主観と客観といった陥りやすい判断ミスについて指摘している事例となります。
また、外資系企業は国際的企業として、日本企業との雇用形態の差異が裁判上どのように評価されるか言及している事例としても参考になるものです。

事案の概要

世界126か所にオフィスを置く、経済・金融情報を提供する通信社である、ブルームバーグに雇用されていた従業員が、能力不足を理由として解雇された事例。

会社側は解雇の事由(能力不足の理由)として、

  • 上司や同僚との協力関係不構築
  • 執筆スピードの遅さ
  • 記事本数の少なさ
  • 記事内容の質の低さ

などを主張している。また、国際的企業であることから、一般的日本的企業とは雇用形態に差異があり、解雇事由の検討にあたって雇用文化の多様性という観点からも検討されるべきと主張している。

これに対し、裁判所は、従業員の主張を取り入れ、解雇無効を認めた。

裁判所の判断

会社主張に係る各解雇事由、すなわち、所在不明、協力関係不構築、執筆スピードの遅さ、記事本数の少なさ及び記事内容の質の低さのそれぞれについて、会社の使用者としての主観的評価として、元従業員の職務能力が不十分であるとしていたことは認められるが、元従業員は、具体的な数値によって会社から設定された課題をほぼ達成している上、会社が、客観的に従業員に求められる職務能力を立証するために提出した証拠は適切なものであったとは言い難いこと等からすれば、会社による主観的評価以上に、客観的に認められる元従業員に求められている職務能力に照らして、元従業員の職務能力の低下が、元従業員と会社との間の労働契約を継続することができないほどに重大なものであることを認めるに足りる証拠はなく、会社の上記主張を踏まえて検討しても、本件解雇は、客観的に合理的な理由を欠くものとして無効であるとした。

考察

能力不足による解雇は、能力不足の事由について、立証責任が会社側に求められます。従って会社としては、能力不足の事情を主張することになります。今回の裁判例は、会社の能力不足の事情の主張についての裁判所の判断視点について示しているものとして参考となります。
会社は、時として「この従業員は仕事が遅い」などといいますが、何と比べて遅いのか、その判断根拠があいまいな場合が多いかと思います。今回の裁判例は、これを主観的評価と位置づけ、主観的評価は認めるものの、客観的には評価できるものがないとして解雇無効の判断をしています。
従いまして、能力評価をする場合には、会社としては客観的評価の指標の構築が求められます。
また、今回の事例の特徴として、外資系でかつ国際的企業に対し、日本の解雇ルールが適用されるかについて言及している点も参考になります。
日本においては、解雇が有効か無効か判断する基準が労働契約法によって定められています。この法律は外資系企業に対しても、日本で事業を行う以上適用されます。ただし、適用するにあたり、外資系企業の雇用形態の特色を考慮するか否かは明確になっていませんでした。今回の裁判所の判断では、外資系企業の雇用形態の特色を考慮することは否定されない(考慮し得る)としています。ただし、今回会社はその特色を立証していないので考慮されませんでした。
私も、外資系企業のお客様から外資系企業は日本の雇用制度になじまないという指摘を受けます。今後は、今回の裁判例を参考にどこが、どのように日本と違うのかという点を整理しておくことが望まれます。

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