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機関紙 KAWA-RA版 労務管理や社会保険に関する話題の情報を、
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第94号 平成30年7月1日

伴弁護士の法律の窓

退職者の競業行為を禁止できますか?

[質問]
退職した社員が当社の取引先に営業活動をして顧客を奪うことがないように、同業他社への就職や同種事業の開業を禁止したいと考えています。そのような禁止は可能ですか?

[回答]

従業員はその立場によっては企業の重要なノウハウを保有していたり、多数の顧客情報を持っています。そのため、従業員が退職後に競業行為を行い、顧客を奪うことがあれば、企業は重大な損害を被ります。そこで、雇用契約書等で退職後の競業禁止義務を規定したり、従業員に競業行為をしない旨の誓約書に署名させることがあります。
しかし、労働者にも、憲法上の「職業選択の自由」が認められるため、このような規定や誓約は、公序良俗に反して無効と判断されることがあります。
有効か否かの判断要素として、①企業側の不利益の程度、②従業員の地位・職務内容、③禁止が地域的に限定されているか、④禁止の期間、⑤代替措置の有無などの諸事情が考慮されますが、現在のところ有効、無効を区別する明確な基準はなく、事案ごとに裁判所が個別判断をしているのが実情です。
④の期間について、大まかな裁判例の傾向を見ると、1年以内の禁止であれば、期間については合理的と評価されることが多いものの、2年以上の禁止となると評価は分かれます。ただ、1年の禁止期間でも効力が認められなかったケースがあり、期間だけが問題ではないので、競業禁止義務の有効性は、判断しづらいところです。
それでは、退職者による顧客の横取りを防ぐにはどうしたらよいのでしょうか?
一つは競業行為の範囲をより狭く限定して、会社の顧客に対する営業活動だけを禁止する規定等にすることです。職業選択の自由の制限の程度が下がるので、有効と認められやすくなります。また、もっと狭く、その従業員が担当していた顧客に対する営業活動だけを禁止すればさらに有効となりやすいでしょう。禁止期間を1年程度に限定して、顧客奪取行為に限定して禁止すれば、無効となる可能性をかなり下げることができます。この点について、会社顧客への営業等を2年間しないという誓約書を有効とした裁判例(東京地裁平成14年8月30日判決)や、従業員の担当顧客への営業等を禁止した合意を有効とした裁判例(東京地裁平成6年9月29日判決)があります。
もう一つは顧客情報を会社で一元的に管理し営業秘密として保護することです。具体的には顧客データにアクセスできる者を限定すると共に、顧客データの持ち出しや複製を禁止する規定を整えます。営業秘密として管理されている顧客情報を不正に持ち出したり、使用する行為は、不正競争防止法21条により犯罪となる場合があるので、従業員も不正な顧客情報の利用に慎重になるでしょう。

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