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機関紙 KAWA-RA版 労務管理や社会保険に関する話題の情報を、
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第119号 令和4年9月1日

伴弁護士の法律の窓

【テーマ】

退職金を必ず支払わなければならないか

【質問】

弊社は従業員が50名程いる会社です。今回、長年勤務をしてきた従業員が定年で退職をすることになったのですが、従業員から退職金を支払うよう請求を受けています。弊社は、就業規則に退職金支給についての規定を設けていないのですが、この場合でも退職金を支払わなければならないでしょうか。

【回答】

  1. 使用者が従業員への退職金の支給を制度化するにあたっては、就業規則に「適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項」(労働基準法89条3の2号)を定める必要があります。就業規則は、その定めた内容が合理的である限り、労働契約の内容になるとされているところ(労働契約法7条)、通常、従業員にメリットのある退職金の支給決定の取り決めは、合理的な内容であると判断されることが多いでしょう。
    そのため、就業規則で退職金の支給について規定をした場合には、使用者と従業員との間で退職金の支給についての労働契約上の合意が成立していると解されることになります。
    一方、就業規則に退職金支払についての規定が明記されていない場合、従業員との間で退職金の支給についての合意が成立していないため、使用者は退職金の支払義務を負うことはないのが原則です。
  2. しかし、退職金の支給について、就業規則等に明記がなくとも、明確な基準に基づき退職金が支払われていたり、退職金支払いの慣行が確立している場合には、使用者は退職金支払の義務を負うこともあります。
    例えば、東京地裁平成7年6月12日判決では、退職金規程を含め就業規則を制定していなかったものの、「案として作成・書面化された退職金規定に基づき退職金を支給する実績が積み重ねられたことにより、退職金の支給慣行が確立していた」と認めたもの、また、東京地裁平成17年4月27日判決では、退職金規定が存在しない事案について、「退職者の実例27例中13名について事務担当者の述べる算定式どおりの退職金が支払われ、残り14名中10名につき、上記算定式との誤差20%以内の退職金が支払わていること…」から、退職金支払の慣行があったと認めたものなどがあります。
  3. 本件では、就業規則に退職金の支給についての規定がない以上、原則退職金を支払わなくても良いことになるでしょう。しかし、過去の退職者に退職金の支払をしている等の慣行がある場合には、従業員に退職金の支払わなければならない可能性もありますので注意が必要です。

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