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機関紙 KAWA-RA版 労務管理や社会保険に関する話題の情報を、タイムリーにお届けする当事務所オリジナルの機関紙です。

第79号 平成28年1月1日

寺崎弁護士の法律の窓

従業員が会社のお金200万円を使い込みしていることが判明しました。業務上横領事件として刑事告訴した後、従業員に告訴の取り下げを交換条件に示談金の支払いをさせることも考えましたが、まとまった資金がありません。そこで会社の管理下で働かせて回収する方が確実だと考え、「給料から手取りの20%を天引きする約束」をさせようと思っています。この方法は何か法律上の問題があるでしょうか。

労働基準法24条1項は、賃金の全額払いの原則を定めています。この原則から最高裁は、使用者による(一方的な)他の債務との相殺を禁止する趣旨であると解しています。通説も全額払いの原則は、弱小債権保護のための私法上の相殺制限とは別個に、それより進んだ労働者保護のための相殺禁止を実現したものと解しています。

では、合意による相殺契約は、認められるのでしょうか。最高裁は、同意が労働者の自由意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するときは、全額払いの原則に反しないとしました(平成2年11月26日第2小法廷判決)。この裁判例は、会社から住宅購入資金融資を受けた従業員が退職する際の退職金債権の合意相殺をした事案でした。相殺合意が「自由意思」に基づいてなされたと認めるに足りる合理的理由が客観的に存在すると言い得る事案です。

しかし、使い込みをした従業員の場合、差押え制限(民事執行法154条)の範囲内とはいえ、「自由意思」によるものと認めるに足りる合理的理由が客観的に存在するとは、必ずしも言い難い事案です。最高裁が、自由意思に基づくかどうかの認定判断は、「厳格かつ慎重に行われなければならない。」と判示していることを考えると、設問の相殺契約は、回避した方が無難だと思われます。

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