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機関紙 KAWA-RA版 労務管理や社会保険に関する話題の情報を、
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第113号 令和3年9月1日

伴弁護士の法律の窓

【テーマ】

新型コロナと休業手当

【質問】

新型コロナに感染した社員を休業させるとき、または、感染の疑いがある社員を休業させる場合、休業期間中の賃金を支払う必要があるのでしょうか?

【回答】

感染した社員を休業させる場合には一般に無給でよい場合が多いですが、感染が疑われるだけの場合には休業手当(平均賃金の60%)を支払う義務が生じる場合があります。

【説明】

労働基準法26条は、使用者の責めに帰すべき事由による休業の場合において、使用者は休業期間中、休業手当(平均賃金の60%以上)を支払う義務があることを定めています。
また、民法536条2項は、債権者(使用者)の責めに帰すべき事由によって債務(労働を提供する債務)を履行することができなくなったときは、債権者(使用者)は、反対給付の履行(賃金の支払い)を拒むことができないと定めています。この民法の規定は、契約一般に関する規定で、カッコ内は労働契約にあてはめた場合の説明です。
一見すると両規定は矛盾するようにも思えますが、次のように解釈することで、矛盾しないものとされています。
民法536条2項の「責めに帰すべき事由」は、使用者に故意、過失または信義則上これと同視すべき事由を意味し、労働基準法26条の「責めに帰すべき事由」はこれよりも広い意味で、使用者側に起因する経営、管理上の障害を含むと考えられています。
その結果、休業についての使用者の責任に応じて、次のとおり賃金支払義務が発生します。

 ①故意、過失または信義則上これと同視すべき事由が原因の場合
   賃金を100%支払う義務あり。
 ②上記の程度にいたらず、使用者側に起因する経営、管理上の障害が原因の場合
   平均賃金の60%(休業手当)を支払う義務があり。
 ③不可抗力の場合
   賃金の支払義務なし。

上記③の不可抗力といえるためには次の2つの条件を満たす必要があります。
  A原因が事業の外部より発生
  B事業主が通常の経営者としての最大の注意を尽くしてもなお避けることができない

質問のケースだと、まず、社員自身の体調が悪く労働することができる健康状態でない場合に休業を命じることはやむを得ないことであり上記③の不可抗力となるでしょう。
次に労働できる体調ではあるものの、感染が確認され、都道府県知事が行う就業制限により社員が就業できない場合にも、一般的には③の場合にあたり、賃金の支払義務はありません。労働者には傷病手当が支給される場合があります。
そして感染を疑われる社員についてですが、発熱などの症状があることをもって一律に休業の措置をとる場合のように、使用者の自主的な判断で休業させる場合は、一般には上記②の場合にあたり、休業手当の支払いが必要になる場合が多いでしょう。
これに対し、濃厚接触者と認定され経過観察のため保健所より自宅待機を要請されている社員に休業を命じる場合、③のBの要素が問題となり、テレワーク等により自宅で勤務することが可能なのに休業を命じれば、②の場合として休業手当の支払いが必要と判断されやすいし、自宅での就労が困難な事情があれば、③の場合と判断されやすいでしょう。
また、およそ合理的な理由もないのに、感染の可能性を口実に休業を命じれば、使用者に①の帰責事由が認められ、賃金全額の支払い義務が生じます。
新型コロナを理由とする休業について、使用者の責任が上記①②③のどれにあたるのか現状では明確な基準がなく、今後の裁判例や行政解釈などの集積をまたなければはっきりしない部分があります。

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