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機関紙 KAWA-RA版 労務管理や社会保険に関する話題の情報を、
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第140号 令和8年3月1日

伴弁護士の法律の窓

【テーマ】

年次有給休暇の時季変更権

【質問】

当社の従業員Xから、来週に2日間年休を取りたいとの申し出がありました。確かに、従業員Xは、その日数分の年休が余っています。しかし、その時期は繁忙期であり、従業員Xがいないと人手不足となり困ってしまいます。その日に従業員Xに働いてもらえるようにすることはできませんか?

【回答】

1 年休の権利は、労働者が、法定の要件を充たすことで法律上当然に発生する権利であり、労働者が年休の時季を指定することにより、その時季の労働義務が消滅することになります。
一方、使用者からすると、労働者が指定した日にその労働者が休むと業務を行う上で支障がある場合もあるでしょう。

2 その場合、従業員Xに事情を説明して、年休の別日への変更をお願いし、従業員Xが任意に変更するのであれば、それで問題はありません(もちろん、使用者が、年休の申請の取下げや時季の変更を強引に求めると問題になります)。ただ、従業員Xが時季変更に応じる義務はありませんので、変更に応じないことも考えられます。

3 労働者が任意に変更しないときでも、使用者は、労働者が請求した時季に年休を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合には、年休の時季変更権を行使することができます(労働基準法39条5項但書)。
時季変更権の行使のためには、「事業の正常な運営を妨げる場合」といえるかがポイントになります。
この点に関する裁判例は多くありますが、ある最高裁判例は、「使用者は、できるだけ労働者が指定した時季に休暇をとれるよう状況に応じた配慮をすべきである」とし、「使用者として、通常の配慮をすれば、勤務割を変更して代替勤務者を配置することが客観的に可能な状況であると認められるにもかかわらず、使用者がそのための配慮をしないことにより代替勤務者が配置されないときは、必要配置人員を欠くものとして事業の正常な運営を妨げる場合に当たるということはできない」と判示しています(弘前電報電話局事件・最高裁昭和62年7月10日判決)。
つまり、時季変更権を行使するためには、業務を行うための必要人員が不足するなどの業務上の支障が生じることだけでは足りず、使用者において代替要員の確保などの努力を行い、労働者が指定した時季に年休が取れるように配慮することが必要となります。
本件で、単に繁忙期で人手不足が生じるということだけでは、時季変更権の行使は認められないでしょう。使用者としては、従業員Xの代替として他の従業員を確保できるか検討するなどの配慮が必要となります。使用者に必要とされる配慮がどのようなものかは、従来の勤務割の変更の方法や頻度、時季指定に対する使用者の従前の対応の仕方、当該労働者の業務の内容・性質(代替の困難さの程度)、欠員補充人員の作業の繁閑、年休請求の時期(使用者が代替人員を確保しうるだけの時間的余裕があったか)などを踏まえて判断されることになります。
また、代替要員の確保の点で、会社自体が常に人手不足であることは、時季変更権の行使を認める事情とはなりません。恒常的な要員不足により常時代替要員の確保が困難である場合には、「事業の正常な運営を妨げる場合」には当たらず、代替要員の確保の努力をせず、恒常的な要員不足を放置したままでなされた時季変更権の行使を違法とした裁判例があります(西日本ジェイアールバス事件:名古屋高裁金沢支部平成10年3月16日判決)。ある労働者が年休を取ったら、たちまち人手不足に陥ることがないように、労働者から年休の申し出があることを想定して日頃から業務体制を整えることが重要です。
年休の時期変更権に関しては、多数の裁判例があり、適法な時季変更権の行使といえるか判断が難しい場合もありますので、そのようなときは専門家に相談するのがよいでしょう。

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