
【テーマ】
自然災害による賃貸人の修繕義務とテナントの休業損害
【質問】
当社所有建物のテナントである飲食店から、台風による浸水被害のため、営業ができなくなったとの連絡がありました。飲食店から営業再開までの休業損害について補償を求められていますが、賃貸人としてこれに応じる義務はあるのでしょうか。
なお、飲食店との間で修繕に関する特約等は特に定めておりません。
【結論】
台風による浸水被害が発生した場合であっても、賃貸人が当然にテナントの休業損害を補償しなければならないわけではありません。しかし、賃貸人に修繕義務が認められるにもかかわらず、合理的な理由なく修繕を怠り営業再開が遅れた場合には、その間の休業損害について賠償責任を負う可能性があります。
【説明】
1 賃貸人は、賃借人に建物を使用・収益させる義務を負っているため、建物に損傷が生じた場合には、必要な修繕を行わなければなりません(民法606条1項)。そのため、建物の損傷によって店舗営業に支障が生じているときは、賃貸人に修繕義務が認められます。これは、損傷の原因が台風や豪雨などの自然災害である場合も同様です。
もっとも、修繕費用が建物の価値や賃料収入との関係で著しく過大となる場合には、当事者間の経済的公平の観点から、当該修繕について賃貸人に義務が認められないと判断される可能性があります(東京高判昭和56年2月12日参照)。建物の修繕費用は、長期的には賃料収入によって回収されることが予定されているところ、賃料収入では到底回収できないような高額の修繕費用まで常に賃貸人が負担しなければならないとすると、賃貸経営そのものが成り立たなくなってしまうからです。
そのため、例えば、台風による浸水被害によって建物が著しく損傷し、その修繕に建物の新築費用に匹敵するほどの高額な費用を要する場合には、賃貸人が修繕義務を負わないと判断される可能性もあるといえるでしょう。
反対に、賃料収入からみても過大な工事費用とまでいえず、修繕が可能であるにもかかわらず、賃貸人が正当な理由なく工事を先延ばしするなど、店舗の営業再開が遅れてしまった場合には、その間に生じた休業損害について賠償責任を負う可能性があります。
2 一方で、賃借人側において、営業再開に向けて代替店舗の確保など現実的に可能な対応策があったにもかかわらず、何ら対応を執らなかった場合には賠償額が減額される可能性があります(最高裁平成21年1月19日参照)。ただし、この最高裁判例の事案は、建物の老朽化の程度、営業再開の見通し、代替店舗の確保可能性及び営業再開のための資金的基盤などの個別具体的事情を踏まえて判断したものであり、どのような場合に賃借人に代替店舗の確保など損害軽減措置を講ずる義務が認められるかを一般的に示したものではありません。
そのため、代替店舗の確保が現実的に可能であったかどうかは、業種や営業内容、被害状況等によって異なり、一律に判断できるものでないことには注意が必要です。
3 台風等による浸水被害が発生した場合、自然災害なので賃貸人に責任はないと判断し、何もしないことは適切ではありません。賃貸人としては、まず建物の被害状況を確認し、専門業者による調査や応急措置を速やかに実施することが重要です。
その上で、修繕の可否や工事期間の見込みについてテナントと十分に情報共有を行うことが、法的責任や紛争リスクを軽減する上で重要といえるでしょう。